デキる!イラニアン姐さんたち

トロント界隈は多民族からなる街で、ありとあらゆる国からの移民がいる。日本で初めて会った人に「何県出身?」と聞くことがあるが、ここなら「どこの国から来たの?」と、出身国を尋ねることがしばしば。


私のいるエリアはイタリアン・コミュニティなので、近所で出会う人やお店の店員は圧倒的にイタリア人だが、たまたまここ数週間でイラン人と立て続けに縁があった

最初は直接関わったわけじゃなく、たまたま知人から、ある業界で最近暗躍しているイラン人のギャングの話を聞いていた。表向き普通のビジネスパーソンだけど、裏でよからぬことをしていると。(どの民族でもなぜかギャングって存在するな、、、。)

その後、私は近所で新しく見つけた、整骨・ペインマネジメントのクリニックに出かけたのだが、私についたセラピストが、とても綺麗な、私より少し年上くらいのなんとイラン人女性だった。

ギャングの話を聞いた直後だったので、「もしやギャングの姐さん?」なんて一瞬思ったが、そんなあらぬ妄想をよそに、その方は、物腰柔らかくすごーく親切でチャーミングな女性だった。

北米にありがちな、「顔は笑ってるけど心はこもっていない」ビジネスライクな対応を想像していた私は、彼女の応対によってとてもリラックス。

そしてビックリしたのは、そのホンワカした雰囲気とうって変わって、施術の腕がしっかりしていたこと。カイロプラクティックと指圧を合わせたような、だからといって無理にバキバキ・ゴリゴリやらない施術が私はすごく気に入った。

私は長年の腰痛・坐骨神経痛持ちで、これまでいろんな治療やマッサージを試してきたが、彼女の施術方法は、これまでの施術者の誰とも違っていた。

私のあちこちの骨と筋肉のバランスを細かに触りながら確かめ、これまでの施術者で誰も押さなかったツボ的ポイントを押しながら筋肉の奥をマッサージ。

彼女の施術室の壁には、イラン・カナダ両国の国家ライセンスやいろんなアワード(表彰)、学校の修了証が掲げてあったが、彼女の手法はもしやイラン式?あるいは単に彼女独自のメソッド?

いずれ、生活習慣や姿勢はなかなかすぐ直らないから、時間が経てばまた痛みは戻ってくるけれど、それでも過去のマッサージよりは断然に効いている実感があった。

そして、レーザーなど他の治療法や栄養についても、いろいろ教えてくれた。お互い英語にクセがあるから、時々聞き返しながら、、、。それにしても接していて本当に気持ちのいい女性だった。

クリニックにあった綺麗な花

さて、今度は別な話。

ある金曜の夕方遅く、私は仕事上とても重要かつ急ぎの文書パッケージを翌ビジネス日、つまり月曜朝先方到着(オーバーナイト)で送らねばならなかった。しかし時はすでに午後6時をまわり、配送会社はどこもオーバーナイトの受付をすでに終了していた。

これがダウンタウンのオフィス街なら週末も受け付けるし、月曜同日発送だってアリだろう。しかし、私はそこまでのサービスがない郊外にいる。ビジネス系サービスの店は金曜は早めに切り上げ、土日もしっかり休むのだ。

2、3件の配送会社や郵便局を回ったがダメで、最後の望み!とばかりに寄った1件で、幸いにもお店の協力を得て発送することが出来た。

そのお店の方というのは、オーナー母娘で、母(60歳くらい)、娘(30歳くらい)、そこに孫、女児(3, 4歳)もいて、の女性3代が揃っていた。

私がカウンターで事情を説明するやいなや、頭の回転が速そうな娘が早口かつ丁寧に「残念ながらもう通常サービスの受付は終わってしまった」と教えてくれた。

しかし続けて、「特別な便を手配できるかも。ちょっと待ってて。」と、店の電話に向かった。

その時、孫がママ(娘)を求めてトコトコやってきたからものだから、一旦中断。しかし様子を見ていた母がすかさず登場し、娘がやろうとしていた仕事をフォローし、そのまま私の対応に回った。

その母は、娘よりはゆっくり話したものの、仕事は非常に丁寧かつ迅速だった。私の様々な質問に対して応対するポイントも的確。

(後日談だが、翌月曜はオンラインのトラッキングサービスに載らないその特別便を、朝から個別でモニターしていてくれ、現場のデリバリーマンと直接やりとりの後、メールと電話で確実に私に配達連絡を届けてくれた。)


「こんな郊外の小さな店でこんなプロフェッショナルな対応を受けるとは!」

と、前述のセラピストに会った時同様、やはり北米で酷い客扱い(ほぼニューヨークで(笑))に慣れていた私は、ほとんど感動し、思わず尋ねてしまった。

「失礼ですが、以前どこか大きな会社とかオフィス系の仕事をやっておられましたか?あなたはこちらのニーズをすぐ理解して、とてもスムースに仕事をこなしていらっしゃる。」

その母は答えた。

「ありがとう、ええ、何度か大きな会社で働いたわ。元々私はIT出身だけどね。娘は金融出身でカナダの大手銀行にも勤務していたの。でも今度は自分たちで何かやってみようと、私たち3ヶ月前にこの店を買って、初めて自分たちのビジネスをやってるの。店にいながら孫の世話もできるしね。」

「あなたたちならきっとうまくいくと思う。」と、私。

「私たちは、自分たちがかつて会社で働いていた時にこういう店に望んでいたサービスを、今自分たちで実現しようとしているの。」

はい、すでに実現していますよ、あなたたち!

事実、開店3ヶ月で同社の数ある店舗の中で「ベスト・カスタマーサービス賞」を受賞したそうだ。うんうん、納得。後日私もGoogle レビューで絶賛コメント入れたもんね。

そして、すでに彼女たちの英語にアクセントがあることに気づいていた私は、最後に「どこから来たの?」と聞いた。

「イランよ。」とお母さん。

キター!またイラニアン!

これまでカナダに数年いた中でほとんど受けたことのない、とても気持ちのいいお客様サービスを、数週間の間に違う業種で立て続けに受けたことにも驚きだが、それがいずれもイラニアン姐さんとは!

前述のセラピストは自国で医学部卒だし、2件目のプロフェッショナル母娘も、高等教育を受けていると思う。彼女たちは今、移民後のカナダで、こういっちゃなんだが、郊外のどこにでもあるような小さなショッピングモールの小さな店で生計を営んでいる。


カナダにやってきた背景はわからないが、移民の中にはそういう優秀な人たちがまだまだいっぱいいるんだろうな。それで社会が豊かになれば、その国にはいい効果だ。

しかし移民組は、言葉や習慣、資格等の問題で、カナダ生まれのカナダ人とは別のステップを踏みながら、生活やキャリアを組み立てていく。私も含め、海外から来た多くの人は、それらを承知でここにいることを選択していると思う。

TOYOTAディーラーに掲げられた大きなカナダ国旗

それでもカナダは他国に比べ移民・難民受け入れ体制が整っているだろう。政府は移民に関する手続きのさらなる迅速化を図っているし、移住後のサポートサービスも各種取り揃えている。

あちこちのコミュニティセンターや教会にある無料の英語クラス。就職コンサルなんかもある。

新住民向けに街を巡る無料バスツアー

仕事や生活上で若干のハンデがあろうが、例えば戦火や独裁政権、政治不安を逃れてきたとか、自国で個人の信条が迫害されている、なんて人たちにとっては、安全な移民先があるだけで夢のような話。

ただただ、安全な場所、あるいは自分が自分でいられる場所、というだけで大きな価値があるだろう。

(参考・英語)チェチェン共和国で迫害されていた同性愛者22名を、カナダ政府とある国際NGOが協力して極秘裏に救出、カナダへ難民として移送させたというニュース。 New York Timesより<写真はモントリオールのゲイ・パレードに参加するジャスティン・トルドー首相>

New York Times: Peter McCabe/Agence France-Presse — Getty Images

カナダは移民と同時に多様性を受入れている一方、アメリカでは、トランプ政権になって移民・人種問題が嫌な方向に向かっている。日本もこの件に関しては偏見が多い。

国境やビザや差別もなく、世界の誰もが自分の好きな場所で、自分の目指したい夢を追いながら安全に暮らせればいいのに、と願うのは、私やジョン・レノンだけではないはずだ。


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