Rescue?

先日、リンダ・ホーグランド監督のドキュメンタリーThe Wound And The Giftを観た。

www.thewoundandthegift.com より


Rescue (救済)』がテーマのこのフィルム、日本の昔話『鶴の恩返し』を軸に、動物と人間の関係がいくつかのストーリーに渡って描き出されていく。

カナダに来てからぐっと動物に触れる機会の多い私は、以前から興味を持っていてようやく見ることができた。

フィルムの中に登場するのは、人工的に繁殖させられた末に捨てられたオオカミ犬や、殺処分寸前だった犬たち、虐待を受けていたトラやライオン等、人間によって傷つけられた動物と、その動物をケアする人間たち。

そしてストーリーが進むにつれ、人間は動物を救っているように見えて、実は自分たちが救われている、という関係が見えてくる。

後半のエピソードに登場した、引退した競走馬を世話する刑期中の囚人。彼は馬の世話を通して、自分がやってしまったことを心から振り返ることができ、徐々に社会復帰への道を歩んでいる。

救われているのは人間と動物、どちらなのだろう?(Who is saving who?) 

動物と関わる様々な場面において、そう私たちに問いかけるているのがこのフィルムだ。

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私も2年前から赤ちゃんだった秋田犬を育てる中で、「こちら(人間)が受け取るものの大きさ」を実感している。それらは、相手をケアすること、想うこと、愛することの中から育まれる、確かな絆の中に存在する。

秋田犬Roninの幼少期

それは言葉を越えたところにある体験だから表現することが難しいが、動物に限らず、人間同志だってとにかく大事に思う人との間に作られる関係は普遍であろう。

現に、私は自分の父が一時入院した時にしばらく世話をしたのだが、何かいつもデ・ジャブな感覚があった。よくよく考えて見たら、自分のやっていること --- それは、着るもの、食べるもの、寝るところ、排泄等、生命に関わる基本的な部分のお世話だが、赤ちゃん犬を育てる時と全く同じ内容だったので、心境がかぶっていたのだ。

私が「大事な生き物を心からケアする」 という意味では、こういっちゃなんだが、父も犬も一緒だったのだ。

そう、動物たちは、人間社会の家族や友人と同じ---そう思えば自分たち人間がやっている行為が相手にとってどうなのかを理解しやすいのではないだろうか?そこには、どちらかが強制したりコントロールしたり傷つけたりする関係はないはずだ。

上野の国立科学博物館の弥生人の展示。すでに犬が家族の一員になっている。

ちょっと話が飛ぶかもしれないが、、、人間を集団で捉えた時も同じだ。山や森を破壊しての乱開発、木の伐採、海の埋め立て、空気や水の汚染、プラスティックの買物袋やペットボトルの廃棄、、、。


私たちは家族や友人の住処をどんどん壊している。実はそれは自分の住処でもある。シェアしている家を自ら壊しているのと同じなのだ。

じっと卵を温めているガチョウ。NYブルックリンのジャマイカ・ベイにて。

「彼らは、この土地で一緒に生きる仲間」

雪原に降り立つ、美しい丹頂鶴たちをそうとらえるのは、このドキュメンタリーの最後に登場する北海道のツルの村の男性。数十年前、村人たちは絶滅寸前の鶴に一生懸命エサを与え続けてそれを阻止、今ではツルの村として観光客を集め、鶴たちが村に貢献している。Who is saving who?

人間と動物のボーダーがなくなってきている私は、このフィルムによってさらにいろいろと思いを巡らすことになった。映像中の動物をケアする人の心と自分の心がシンクロしてしまって、、、。

このドキュメンタリーが公開されたのは数年前だけど、観る機会を逃していた。いずれ観ていたとしても、当時はまだ私にとって動物の世界は遠かったから、感じ方は違っていただろう。心で感じ取れることができる今のこのタイミングで見る機会が巡ってきたというのも、意味があるのかもね、、、。

実家の窓から。決まった時間にあるおじいちゃんと犬が散歩しているのをよく見かけたが、いつもそこから何かかけがえのない暖かな繋がりを感じていた。

***

フィルムの中で、ひとつ、微笑ましく見れるシーンがあった。それは、大聖堂で多くの種類の動物たちが、人間たちの付添いのもと祝福を受けるシーン。

www.thewoundandthegift.com より

これはニューヨークの古く美しいSt. John the Divine大聖堂で、アッシジの聖フランチェスコに敬意を表し、毎年10月に行われる儀式。出席している動物にとってはなんのこっちゃ?かもしれないが、この儀式によって私たち人間たちが、動物も共に生きる仲間であり、彼らから多くのギフトを受け取っていることを改めて感じるいい機会であると思う。

実は私、この大聖堂の目と鼻の先に住んでいたことがあったのに、このフィルムを見るまでこの儀式のことを知らなかった!近年中に必ず参加したいな。

去年2016年の儀式の様子を伝える記事(英語)

動物たちとの関わり方を考えるきっかけをくれるこのドキュメンタリー、内容はもちろんのこと、美しいイラストレーションや映像にも心を奪われる。

特に、鶴が羽ばたく瞬間や降り立つ瞬間の細かな動きは、普段肉眼では見られないから、こうしてたっぷりと見られるのはもはや贅沢の域。そして流れる音楽もしっとり・しっくりと動物たちの動きに寄り添っている。

www.thewoundandthegift.com より

このフィルムにご興味のある方、入手方法を知りたい方は私までご連絡下さい!
tothenorth7 アットマーク gmail.com

The Wound And The Gift ウェブサイト(日英http://www.thewoundandthegift.com/


それから、日本で英語を教える先生方によい情報!なんと、この映画をもとにした英語学習教材(DVDも作られているので、興味のある方はぜひこのページをチェック!


動物は私たちのごく身近に存在するし、テーマそのものが教育的・社会的に意味のあるものなので、単に英単語暗記したりテキスト辿るよりも、ずっと意味のある教材と思う。

羽を洗う白鳥。NYロングアイランドにて。

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● 動物と人間の関係や問題について興味のある方は、友人・あずまゆかさんの書いたこちらの記事もどうぞ。

 動物が一方的・強制的に人間の犠牲になっている例は数多くあるが、私が最近署名と寄付をした熊の開放運動。これは、アジアで古くから薬として使われてる生きた熊の胆汁を採取するために捕らえられている熊たち。英語だが賛同される方はこのサイト署名可能。日本語では「熊の胆汁」等で検索すると情報が色々出てきます。


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